認知症の遠隔-お母さん、そこはトイレではないよ。
認知症の母親を遠隔してほしいという依頼を受けたことがあります。
母親はすでに施設に入所していて、もはや親子として、会話することはできない。
ただ、自分を娘だということは認識しているようだ。
体を触ると嫌がり、服の着せ替えが難しい、などなど。
依頼者である娘さんによると、入所先での生活で、お母様にはいろいろ問題がありました。
その中で一番困っておられたのが、部屋のくず入れを、トイレと間違って用を足してしまうことでした。
それを遠隔で、なんとかならないでしょうか?
施設の職員さんにあまりにも申し訳がなくて。。。。と話される娘さん。
一般的に、ASTの認知症の施療は、次のような方針で行ないます。
〇脳の萎縮が始まる海馬、側頭葉、前頭葉を中心に血流を促し、活性化すること。
〇脳全体の血流を促す。
〇脳全体の血管の炎症を抑えること。
この目的は、脳の活性化を促して、進行を停止、そして、元の生活にできるだけ近づけることを目指すものです。
認知症の初期には、とても効果的です。
認知症が出始めた時に、毎日母親にASTを施療して、元の状態に戻った、という体験をお持ちの方は何人もあります。
今回の依頼の患者さんの場合は、家に戻るのが目的ではなく、
現在の生活をできるだけ長く維持することです。
それもできるだけ、気持ちよく生活できるということが大切になってきます。
もう少し詳しく娘さんのお話を聞くと、お母様は、以前はとても几帳面だったようです。
そのこともあって、食事後の食器を黙々と1人で洗ったり、入所者の方の洗濯物をきちんと畳んだりと、お手伝いをされているとのこと。
そんな話を聞いているうちに、ひょっとして、部屋のくず入れをトイレに間違われるのは、そんなお母様の性格から来ているのではないかと考えました。
几帳面で、人の世話になるのが嫌な方なら、トイレも1人で済まそうとするかもしれない。
また、トイレに連れて行ってほしいと、いう表現ができない状態で、
急に尿意を催した時、我慢ができないとしたら、
どうするか?
近くにある何か、容器のようなもので用を足すしかありません。
くず入れなら、周りの部屋を汚すことはなく、
人の迷惑をかけなくて済む。
もしかして、そんなことを考えられているのかもしれない。
高齢者になると、認知症とは別に“頻尿”になりやすくなります。
内臓を支えてくれる腹部や骨盤底筋群の筋肉が緩みことで、内臓が、膀胱を圧迫してしまうからです。
また、頻尿が多い方は、膀胱そのものの筋肉も硬くなり、容量が小さくなっています。
そのため膀胱にちょっと尿が溜るだけで、尿意を感じてしまうのです。
そこで、その方に、頭の施療とは別に、頻尿を改善する施療を行ないました。
〇膀胱の筋肉の柔軟性を増して、容量を大きくすること、
〇尿道口を閉じる筋肉の力を強くすること、
〇下腹部の筋肉、骨盤底筋の筋力UP、を目指しました。
娘さんには、入所先で、おトイレに行く声掛けをできるだけ多くしてもらうようにお願いしました。
すると1か月位経つ頃に、お母様はお手洗いで用を足すようになられたのです。
また、以前は1人でいることを好まれていましたが、気が付くと、他の入所者の方たちと一緒に過したり、笑顔でいる時間が増えるようになったのです。
おトイレの問題が解決したため、入所されてから初めて、お母様を実家に連れて帰り、何年かぶりにご家族水入らずで、お昼間過ごすことができたと、娘さんから嬉しいご報告をいただきました。