前回、親指の腱鞘炎をこじらせてしまった患者さんのお話をしました。その要因の1つに“ストレス”がありました。今回は、そのストレスに対してASTではどのように対応していくかをお話したいと思います。
通常、強い痛みがある場合や、痛みが慢性的に続く場合、まず考慮しなければいけないのが、精神的な要因です。痛みがストレスとなって、患者さんを精神的に追い込んでいる場合が少なからずあるからです。
ストレスが体に及ぼす影響は無視できません。ストレスが続くことより、副腎よりストレスホルモン(コルチゾール)が分泌され、ストレスに対して体は対処しようとします。
それが慢性になると、さすがに副腎は疲れてきます。ストレスホルモンの産生が追い付かなくなり、体の免疫機能が低下して、病気が発現しやすくなります。
また、慢性的な痛みは、痛覚過敏を引き起こし、痛みが増強することが分かっています。また、痛みが継続していくと、そのストレスから不安や心の緊張を生み出し、次第にうつ状態に繋がっていくことも知られています。
この患者さんのお話をよく聞くと、夜熟睡できないのは、実は痛みだけのせいではなく、仕事上でのストレスが大きいことが分かりました。
ASTでは、この患者さんのように、病院の検査では異常な所見がないにもかかわらず、体調全体がなんとなくすっきりしない、だるい、というような場合には、 まず“脳幹”と呼ばれる部位の活性化を目指します。
ここは、呼吸や血圧や内臓などの自律神経系の機能を調整したり、バランスを取ったりする生命維持機能に重要な脳の部位です。また、自律神経系や内分泌系をより上位からコントロールする“視床下部”もその上方にあります。これらの部位に気を掛けて、体全体の調子を整えるのが目標です。
次は、不安感や過度の緊張を取って、心のバランスを取り戻すことです。
うつ症状やストレスが増えるにつれて、些細なことですぐ不安になったり、恐怖心が芽生えたりします。これは不安や恐怖という情動を発現させる“扁桃体”という部位が過剰に亢進することによります。
扁桃体の興奮は、脳幹の自律神経や脳神経に繋がり、顔の緊張や胃の痛み、便秘、下痢などの自律神経症状の原因ともなります。
この “扁桃体”は、大脳辺縁系と呼ばれる脳の深部にあります。ちょうど目の高さの位置で記憶を司る海馬の前にあります。
この“扁桃体”は今では、ASTのうつの施療には欠かせない施療部位です。そこに向かって、その興奮を静めるように気を掛けていきます。
患者さんの体に備わっている本来の治癒力を取り戻すために、脳幹の活性化と心のバランスを取り戻す作業は、気功施療を進めていくための基本的な柱になります。
2か月くらい経った頃には、この患者さんは、熟睡ができるようになり、胃痛や不安感が穏やかになっていました。それと並行して、親指の炎症も痛みも治まっていました。
参考文献)
私、ASTの気功をやっています。日本AST協会 星雲社(2014)、
痛覚のふしぎ 伊藤誠二 ブルーバックス講談社(2017)、 ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム 仙波恵美子日本緩和医療薬学雑誌3:73-84(2010)