気功は常に“意識”と連動している、と考えています。では“意識”とは何でしょうか?仮に今、誰かの視線を感じた、というようなシチュエーションを考えてみてください。この場合の“感じる”は、視線を“意識した”とも言い換えることができます。
何かを感じるには、そのための感覚を研ぎ澄ますことが必要となってきます。
例えば、数ミリ単位のねじを作る職人の方の指先は、おそらく練習に練習を積み重ね、血もにじむような鍛錬をされたことで、一寸の狂いを許さないセンサーを身に付けられたのではなかと思います。
感知させるもの、それが意識です。
つまり、“意識とは培うもの”、あるいは、学習して身に付けるものなのです。
ここで確認したいことは、意識は“イメージ”とは明確に違うものだということです。
イメージは、単なる想像の世界でしかありません。
例えば、隣の人の胃を感じてください、というと、胃をイメージしたらよいのですね?と大抵の方がお答えになります。
隣の人の胃をイメージしたものは、イメージした人の“想像上での隣の人の胃”であり、“隣りの人の胃”ではありません。
隣の人の胃を意識するというのは、隣りの人の胃を実感が伴ったものでなければならないからです。
実感を伴った意識を持つにはどうするかというと、繰り返しの練習と経験しかありません。
気功で施療をしているというと、たいていの方は、痛いところに手を当てると、魔法のように一瞬で痛みが消えるようなことを想像されるようです。
残念ながらAST気功はそんな簡単ではありません。
症状のある箇所、患っている箇所をどれだけ明確に、深く意識することができるかということがとても大切になってきます。
なぜなら、意識がクリアになればなるほど、その意識した患部に“ASTの気”が向かうことができるからです。
つまり、患っている箇所に“ASTの気”が作用するためには、どれだけ鮮明な深い意識ができるかということなのです。
以前、AST気功をされているベテランの気功師の方から次のようなお話を聞いたことがあります。
「先日気功施療をしていた時、軟骨に気が入っていく感じがしてね。後日、レントゲンで、変形性股関節症の患者さんの臼蓋の状態が改善していたことが分かったの」。
AST気功で使う気には骨細胞に作用する気があります。しかし、すでに変形している骨や軟骨をより積極的な改善に向けて作用させていくというのは不可能です。
すでに変形してしまっている患部へのASTの効果は、できるだけ現状維持を目指すのが目標だからです。
また、その患者さんの股関節の変形はどの程度だったのかとか、どのくらい改善したのかとか、実際にこの目で事実確認したわけではありません。
しかし。
そのお話によって、その先輩への信頼が揺らぐことはありませんでした。
なぜならその方の真摯なAST気功に対する取り組みと、患者さんへの思い、そして気功暦数十年という練習の積み重ねを知っていたからです。
事実は、その患者さんはAST気功を受け、画像結果では良い方向へ改善したということです。
軟骨にまで意識を深めることができる。軟骨に気が入っていく意識を身に付けるということは、AST気功をやっているものでも、そんな簡単にできることではありません。
日々の練習の積み重ねで、その実感がその先輩の手にあるからこそ、淡々とそんな経験話をしてくださったのだと思います。