一年で最も華やかな時期がやってきました。当センター裏の公園の白白蓮は、まるで雪の花が青空に向かっていっせいに舞い上がったかのような豪華さです
。街のあちらこちらに見える淡いピンク色は桜です。一雨ごとに満開へ近づいていくようです。個々のお家の門先に咲いている黄色の水仙も紫や赤や黄色のパンジーやマーガレット、少しクリームがかった深見のピンク色のボケの花たち。春はやはり心躍る時期です。とは言え自粛ムードは続いていいます。ちなみに今年もお花見の自粛による経済効果の打撃も深刻のようです。
そんな日々の生活に一つ楽しみがあります。通勤の途中に出会うコギー犬です。家の門の柵を背にしていつも寝そべっているのですが、そこにはちゃんと理由があるようです。通りがかる近所の子供たちがそのコギーを見つけると、いつも嬉々として駆け寄りその門の柵の間から手を差し入れ、コギーを撫でるのです。彼、あるいは彼女はとても気持ちよさそうに体をゆだねています。彼、あるいは彼女はそれが分かっているのか、ちょうど撫でてもらえる位置に背を向けて寝ているかのようです。ある時は仰向けに寝転がり、お腹を出して日向ぼっこをしています。いつの間にかその愛らしい姿を探すのが習慣になっていました。自転車でその前を通りかかるとたいてい目が合います。しかし、彼、あるいは彼女は
“撫でてくれないなら興味ないね”そんな感じで一瞥されます。そんな素っ気無さそぶりがまた楽しい!
最近ちょっとした事件が起こりました。いつものように朝通りかかると彼、あるいは彼女がいません。いつものよう眠そうに寝そべっている姿が見当たらないのです。彼、あるいは彼女のお散歩時間はたいてい夜です。なのでどうしたのかなと思いつつ、通り過ぎました。それから1週間近く毎朝、毎夕その家の前を通りかかるたびに門を見ますがその姿はありませんでした。突然姿が消えた彼、あるいは彼女。何となく心に隙間風が吹いてきます。人間にしたらもう80歳近くになるのでしょうか。体を壊したのかもしれない、とだんだん心配になってきました。
ちょうど一週間くらい過ぎたころでしょうか、通勤の途中、パッと彼、あるいは彼女がいつものようにこちらに背を向けて寝そべっている姿が飛び込んできました。ただし、その胴体には体を冷やさないように腹巻のようなものが着せられていました。
あっ、今日はいる、という声にすぐ気が付いたのか、彼、あるいは彼女はいつもと違ってこちらをしばしじっと見つめた後、
―いるよ
と返事をしてくれたかのようでした。