今年の夏は暑さ対策と感染拡大の防止のためにこの2つをどのように舵取っていくかがテーマになりそうです。
マスク着用で熱中症に気を付けましょう、というニュースが最近頻繁に流れています。確かに日差しの強い中でのマスク着用は体感的にホントに暑い!屋内でも室温が上昇してくるとマスクを付けているのが不快になってきます。ジョギングなどスポーツをするとかなり辛いのではないでしょうか。サーモグラフィーで見ると、マスク着用で顔面周辺の温度はマスクなしに比べて瞬く間に高くなり、湿度も10%上昇するという報告があります。この夏スポーツメーカーなどはこぞって涼しいマスクを売り出す予定のようで、待ち遠しいこの頃です。
さて、“本当にマスク着用が熱中症のリスクになるのか”、ということで、5月28日の日経メディカルに「マスクで熱中症予防リスクは上がるのか?」に掲載された薬師寺泰匡氏の記事は大変興味深いものでした。
結論から言えば、その時点ではマスクで熱中症になる確固たるデーターはまだないとのこと。そもそも熱中症とは、体内に産生した熱をうまく体外へ放出できずに、体内に必要以上に熱がこもり過ぎた結果起きるめまいなど身体に起きるさまざまな症状です。ご存じの通り重症化すると命にもかかわることもあります。薬師寺によると、熱がこもり過ぎる理由としては運動や、脱水による血液循環の機能不全や高温多湿の環境などを挙げています。また高齢者になると温度を感知する機能や発汗機能が低下する傾向もあります。マスク着用で口腔湿度が上がるために特に高齢者などは喉が渇いていることに気が付かないということもあるようです。なるほど、こういう状況下では、マスク着用が熱中症の引き金になる可能性も充分に考えられます。
そもそも体内にできた熱はどのように体外へ発散されるかというと、その大部分は皮膚からの発汗に伴う気化熱によるものです。
夏に向かって患者さんが頻繁に訴える症状の1つに、だるさが取れない、なんとなくすっきりしない、というのがあります。話を聞くと熱中症が怖いから部屋で過ごすことが多いので汗をかかないといいます。冷房が効いた部屋に終日過ごすため、体全体が冷えているようです。そういう方に共通しているのは、入浴をお風呂ではなく、シャワーで簡単に済ませているということです。特に高齢の方になると、1人で入浴することが難しくなり、シャワーで済ましてしまうという方を多く見かけます。
お風呂は言わずもがな、全身の循環をよくし、新陳代謝を活性化します。副交感神経を活性化することで、内臓機能を活性化させます。手足の冷えを改善させます。これにより腰部疲労や肩こり、頸部のこりなども和らぎます。なによりも皮膚からの発汗機能を高めてくれるとっても身近で即効性のある優れものなのです。“温泉”というと気持ちが動いても、“お風呂”というと“夏のお風呂は暑いからね”、とか“なんとなく面倒”で済ませていらっしゃるのが現実です。
ニュースや雑誌などで熱中症対策についていろいろ紹介されていますが、それらは水際対策ばかりのように思うのは私達だけでしょうか。熱中症にならないための一番根っこにあるのは、まさに体内に産生された過剰な熱を放出する皮膚機能を強化するということです。屋外で軽い運動をして徐々に暑さに慣らす、ということが熱中症対策の一環としてあります。でも高齢者の方や気楽に移動できない方にとっては、それは容易なことではありません。それなら毎日お風呂に入り、汗を一杯かく、という従来から日常生活で当たり前にしてきたことを行なう。それで皮膚の発汗作用を強化することができるのです。
なので“事情が許せば、ぜひお風呂に入ってくださいね”と、この時期繰り返し患者さんにお伝えすることになります。全身浴が難しい方は足浴でもよいかと思います。補足ですが、先ほどの取り上げた記事の中で、マスクを常時付けていると水分をこまめに取るのが面倒になるかもしれないので気を付けなければいけない、と記されています。今年は熱さ対策と感染対策の両面から気を付けなければと思うと、だんだん面倒だなあと思う方もいらっしゃるかもしれません。こうしなければいけないのではなく、食事後歯磨きをするように、日常生活の一部になるようにいろいろな工夫を凝らすことができればよいですね。